ななこ♂の部屋

小説「プログラミング・ガール」を書いています。

精神科医との対話④

 「キミは相当ダメージを受けている。」その精神科医はドカっと大きな美しい飴色の灰皿を置き、タバコを吸ってそう言った。私は禁煙しているのでその美しい灰皿を眺めながら「音楽を聴きます。」と答えた。

 その精神科医は頷きながら「どんな音楽を聴くのかい?」。「名曲というのは最初のワンフレーズで全てが出てしまうものです。」。残酷だな、と思いながら自分のiPodのプレイリストを思い出しながら、心の中でそっと呟いた。

 診察が終わり、帰る電車の中で宮崎あおいの「ソラニン」を聴いた。良い曲だなと思った。友人は言った「映画館で観るものが映画なんだよ、それ以外はDVDだ」。なるほど、それは説得力のある言葉だった。

 DVDのレンタルすら面倒くさい私には映画のことはどうでも良かった。TVすら見ない私にはYouTubeくらいが丁度良かった。別に将来を悲観している訳ではないが、ちょっとしんどい、というのが本音だった。

 駅のコンクリートの階段を昇ると、息が切れた。冷たい微糖の缶コーヒーが飲みたかった。結局、ひどい鬱だと気が付いた。エネルギーを蓄える必要がある。映画だろうがDVDだろうが、やはり私は物語を欲している。

 「人生は物語だ。」という人が世の中にはいるが、こんなクソみたいな脚本を私は求めていない。「ソラニン」がどんな映画か知らないが、きっと素晴らしい物語なんだろう。次に精神科医に会う時までに答えを用意したい。