ななこ♂の部屋

小説「プログラミング・ガール」を書いています。

顔のない女性。

 彼女は生まれた時から顔がなかった。両親はそんな事は気にせずにその娘を愛した。彼女は顔がないことがコンプレックスだった。初めて出来た彼氏はあまり顔がないことについて気にしていなかった。彼女は顔がないことがとても恥ずかしかった。

 大学を卒業後は銀行の窓口の仕事に就いた。彼女は疑問に思っていた。なぜ、顔のない人間が接客出来るのだろうか?と。採用した人は「銀行員に顔なんていらない。」と言った。

 彼女は一生懸命働いた。お客さんの評判も上々で、同僚とも仲良くやっていた。何も不自由がない人生だった。知人の紹介で結婚することも決まっていた。何もかもが順風満帆だった。

 結婚後、子供を授かった。顔のない子供だった。彼女はショックを受けた。今まで一生懸命に生きてきた事がまるで無意味になってしまった気がした。しかし、子供は歳を重ねるごとに顔の輪郭が生まれてきた。

 「本当に良かった。」彼女は涙を生まれて初めて流した。涙の跡はくっきりとあった。見えないだけで彼女の顔はあったのだ。それに気づいてから、仕事を辞めた。家事に育児に一生懸命になった。子供が小学校へ上がればPTA役員など、積極的に参加した。

 彼女もまた歳を重ねるごとに顔の輪郭が生まれてきた。しかし既に彼女にとってはどうでもいい事だった。