ななこ♂の部屋

小説「プログラミング・ガール」を書いています。

僕と古着と古着屋

 90年代、スニーカーとヴィンテージ・ジーンズの大ブームがあった。ちょうど僕が高校生の頃だ。通学の乗り換え駅に千葉県の柏市があり、そこはそんなブームの真っただ中にあった街だ。当時「裏カシ」という言葉があり、柏の裏路地にある古着屋や雑貨屋の事を指していた。メジャーなファッション雑誌にもこの言葉が使われ、柏は「若者の街」として広く知れ渡っていた。駅前にはストリート・ミュージシャンも数多くいて、夜になると決まって路上ライブが開かれていた。「エア・マックス狩り」なる、スニーカーにプレミア価格が付き、換金目的でヤンキーやチーマーによるスニーカーの盗難事件が相次いだ。

 クラスメートにもやはりそういう古着やスニーカーが好きな人たちがいて、ファッションに疎い僕に自作の「古着屋MAP」を作ってくれて、一緒に買い物をしたりした。当時は柏には古着屋が数多くあり、有名な所では「RED LION」という古着屋の前の通りは、店の名前を使って、通称「RED LION通り」と呼ばれるほどだった。行政も後押しして、市の広報に大学生の作った「古着屋MAP」が置かれ、観光スポットにも利用されていた。

 大学生になり、柏から離れても古着屋にはよく通った。ヴィンテージとか価値はよく分からないけど、古着屋の雰囲気が好きだった。しかし、ブームというものは去るもので、00年代に入ると街から古着屋が徐々に減り、UNIQLO、GAP、などの低価格の大型のフランチャイズ店がアパレル業界を席巻した。いわゆる「ファスト・ファッション」というやつだ。

 そんな時だ。大学卒業後、地元に帰り、たまたま教えられた古着屋に入ってみた。いきなり店員さんが話しかけてきてビックリした。だいたい古着屋の店員というのは寡黙な人が多いイメージだったからだ。そして生まれて初めてヴィンテージ・ジーンズを買った。生地が厚く、着ていると身体にしっくりくる。素材感、細かいディテール、ジーンズの持つ雰囲気。「面白いな」と思った。

 それからその古着屋には通い詰めた。一時期は店の中にある商品を全て把握していたほどだ(笑)それから定期的にその古着屋には通っている。自分にとって洋服を買うのは「小さな幸せ」であり、季節の変わり目の楽しみであり、古着屋のお兄さんのウンチクを聞くのがまた面白い。こんなに商品に対して情熱を持っている古着屋はそこしか知らない。洋服を洗濯したり、タンスの洋服を入れ替えたりしているのも楽しい。経年によって変化するからだ。古着と古着屋は楽しい。