ななこ♂の部屋

小説「プログラミング・ガール」を書いています。

派遣のおじさん

 「仕事ってのはなー、デキるやつばかりじゃ面白くない。出来ないやつがいて、助け合うのが楽しいんだ。」とよく言っていた。たまに缶コーヒーを奢ってくれたりもした。私はそのおじさんが好きだった。歳は親子ほど離れているが、何故かウマが合った。

 「でも、出来るやつのほうがいいでしょ?採用する時に。」おじさんは分かってないなという顔をした。「だからダメなんだよ。」なるほど、理屈には合ってないが妙に納得した。仕事の休憩の寒い夜だった。「だから世の中ギスギスしちまうんだ。大事なのは義理と人情よ。」とアゴヒゲをさすりながら言った。

 義理と人情なんて昭和で終わってる、私は心のなかでそう呟いた。今は平成、時代が違う。しかしおじさんは確かにそういう所がある。若い子が仕事でミスをしても「良いってことよ。」と言い手伝ったりする、その姿はカッコいい。

 私はおじさんにちょっとだけ憧れていた。底辺の底辺の仕事だったが、仕事に誇りを持っていた。何故おじさんが派遣で働いてるかは謎だったが、そんなことはどうでも良かった。たいがいにおいて大切な事はシンプルなものだ。